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やすりくず

鑢屑

寺田 寅彦

「週刊朝日」1924(大正13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,364 字 · 13 页

青空文庫

もしそうだとすると彼は淋しい人である。

こういう男にとって、その飼猫に対する細君の待遇は、そのままに彼自身に対する待遇である。猫に対する冷酷はすなわち夫に対する冷酷ではあるまいか。

こう考えると私はこの男を笑う気にはどうしてもならなくなった。

(大正十二年十月『週刊朝日』)

十

芝生に水をやるのに、十分に、たっぷり、土の底深く浸み込むまでやることにしなければいけない。もし、ほんの表面の薄い層だけ湿るようなやり方をしていると、芝の根がついつい欺されて甘やかされて、浅い上層だけに発達して来る。そうして大旱に逢った時に、深層の水分を取ることが出来なくなって、枯死してしまう。

少し唐突な話ではあるが、これと同じように、目前の利用のみを目当てにするような、いわゆる職業的の科学教育は結局基礎科学の根を枯死させることになりはしないか。これは、深く考えてみなければならない刻下の重大な問題である。

十一

排日案に対して、フィルムや、化粧や、耳かくしのボイコットが問題になっている。

ところが先頃ゴビの沙漠の砂の中から地質時代の大きな爬虫のディノソーラスの卵を発見した米国の学者達は、今度はまた中部アジアの大沙漠へ、地質時代の人間の祖先の骨を捜しに出かける準備をしている。