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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

「大丈夫、よかよか」

長老がそういいざま走りだした。橋本のあとから五人は木を越え机を越え、手をひき、ひかれつつ撮影室へと駆けあがる。正常の通路は潰れ、塞がれ、通れないので、窓をのり越え、パイプにつかまり、回り回って、おやじ救出に走ってゆく。薬局の高窓をのり越えるには人梯子をつくらねばならなかった。長老がガス・メーターをつかんで台になり、その上に史郎君が重なり、その膝、背、肩と伝って、婦長さんも橋本君も椿山君も、よじ登って高窓を越えた。それから史郎がとび上がり、最後にみんなで長老の長い手長海老みたいな両手をひっぱったら、「おっこらしょ」と、いつもの癖の掛け声を出してとび上がってきた。

現像室では施先生が肺のレントゲン写真をちょうど現像タンクから引き出すところだった。裏山に立っている対空監視の学生が「怪しい飛行機が頭上に侵入しまあす。退避、退避」と突然怒鳴るのを聞いた。妙に甲高い爆音をその次に聞いた。急降下爆撃だと考えてその場に伏せたが、写真が駄目になってはならぬと水洗いして定着タンクに静かに入れた。それから伏せようとするのと、どかんと潰されたのとが同時だった。