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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

「助けてくださーい」「苦しいよう」「誰か来てー」「熱いよう、焼けるよう、水かけてー」「お母さーん」

「お母さーん!」

先生はめまいを感じてまた倒れた。しばらくして目をあけてみると、空いちめん固体のように濃厚な魔雲に埋められ、太陽は光を失い、赤ちゃけた円板に見える。あたりは日暮れのようにうす暗く、ひやりと寒かった。耳をすまして聞くと、助けを求める声はいくつか減って、お母さんを呼ぶ幼児は、もう焼け死んだらしかった。

一年の学生はしずかにノートをとっていた。まだ耳なれぬラテン語の解剖学の講義を受けている自分が、なんだかもう一人前の医者になったような気がして、自分の書いた横文字を自ら誇りたげに見送りながら教授の言葉を追ってペンを走らせていた。かっと光り、どっと潰れた。教授の声がまだ途切れていなかった。頭を上げてあたりを見るひまもなかった。教室にきちんと並んで座ったまま、その位置で重い屋根の下に埋められてしまったのである。級長藤本君は、腰を梁か何かで軽く挟まれている自分を見いだした。しかし真っ暗だ。塵と土煙とを吸いこんではむせて咳をした。机と机との底の狭い空間で、ようやく我が身の自由をとりもどした。