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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

僕はここまで考えたのです。外に考え様がありますか。さあ、返事をして下さい。返事をして下さい」

「あんまりです。あんまりです」裸体の静子が、ワッと悲鳴を上げて、私にとりすがって来た。そして、私のワイシャツの上に顔をつけて、熱い涙が私の肌に感じられた程も、さめざめと泣き入るのだった。

「あなたは何故泣くのです。さっきから何故僕の推理を止めさせようとしたのです。当り前なればあなたには命がけの問題なのだから、聞きたがる筈じゃありませんか。これ丈けでも、僕はあなたを疑わないではいられぬのだ。御聞きなさい。まだ僕の推理はおしまいじゃないのだ。大江春泥の細君は何故眼鏡をかけていた、金歯をはめていた、歯痛止めの貼り薬をしていた、洋髪に結って丸顔に見せていた。あれは春泥の『パノラマ国』の変装法そっくりじゃありませんか。春泥はあの小説の中で、日本人の変装の極意を説いている。髪形を変えること、眼鏡をかけること、含み綿をすること、それから又、『一銭銅貨』の中では、丈夫な歯の上に、夜店の鍍金の金歯をはめる思いつきが書いてある。あなたは人目につき易い八重歯を持っている。それを隠す為に鍍金の金歯をかぶせたのだ。