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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

とか、「旅行中」とか、「雑誌記者諸君。原稿の依頼は凡て手紙で願います。面会はお断りです」などという手厳しい掛け札さえぶら下がっているのだから、流石の本田も辟易して、空しく帰る場合も一度ならずあった。そんな風だから、転居をしても一々通知状を出すではなく、凡て記者の方で郵便物などを元にして探し出さなければならないのだった。

「春泥と話をしたり、細君と冗談口を利き合ったものは、雑誌記者多しと雖も、恐らく僕位なもんでしょう」

本田はそう云って自慢をした。

「春泥って、写真を見ると仲々好男子だが、実物もあんなかね」

私は段々好奇心を起して、こんなことを聞いて見た。

「いや、どうもあの写真はうそらしい。本人は若い時の写真だって云ってましたが、どうもおかしいですよ。春泥はあんな好男子じゃありませんよ。いやにブクブク肥っていて、運動をしないせいでしょう。(いつも寝ているんですからね)顔の皮膚なんか、肥っている癖に、ひどくたるんでいて、支那人の様に無表情で、目なんか、ドロンとにごっていて、云って見れば土左衛門見たいな感じなんですよ。それに非常な話下手で無口なんです。あんな男に、どうしてあんなすばらしい小説が書けるかと思われる位ですよ。