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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

余り様子が変っていたので挨拶もしなかったけれど、確かに春泥に相違ないのです」

「どこで、どこで」

私は思わず聞返した。

「浅草公園ですよ。僕その時実は朝帰りの途中で、酔がさめ切っていなかったのか知れませんがね」本田はニヤニヤして頭をかいた。「ホラ来々軒っていう支那料理があるでしょう。あすこの角の所に、まだ人通りも少い朝っぱらから、真赤なとんがり帽に道化服の、よく太った広告ビラ配りが、ヒョコンと立っていたのです。何とも夢みたいな話だけど、それが大江春泥だったのですよ。ハッとして立止って、声をかけようかどうしようかと思い迷っている内に、相手の方でも気づいたのでしょう。併しやっぱりボヤッとした無表情な顔で、クルリと後向きになると、そのまま大急ぎで向うの路地へ這入って行ってしまいました。よっぽど追っかけ様かと思ったけれど、あの風体じゃ挨拶するのも却って変だと考え直して、そのまま帰ったのですが」

大江春泥の異様な生活を聞いている内に、私は悪夢でも見ている様な、不愉快な気持になって来た。そして、彼が浅草公園で、とんがり帽と道化服をつけて立っていたと聞いた時には、何故かギョッとして、総毛立つ様な感じがした。