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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

そして、静子の居間と静子等の寝室の天井に、板のすいた所があって、その箇所丈けほこりが余計に乱れていた。

私は屋根裏の遊戯者を真似て、そこから下の部屋を覗いて見たが、春泥がそれに陶酔したのも決して無理ではなかった。天井板の隙間から見た「下界」の光景の不思議さは、誠に想像以上であった。殊にも、丁度私の目の下にうなだれていた静子の姿を眺めた時には、人間というものが、目の角度によっては、こうも異様に見えるものかと驚いた程であった。我々はいつも横の方から見られつけているので、どんなに自分の姿を意識している人でも、真上から見た恰好までは考えていない。そこには非常な隙がある筈だ。隙がある丈けに少しも飾らぬ生地のままの人間が、やや無恰好に曝露されているのだ。静子の艶々した丸髷には、(真上から見た丸髷というものの形からして、已に変であったが)前髪と髷との間の窪みに、薄くではあったが、ほこりが溜って、外の綺麗な部分とは比較にならぬ程汚れていたし、髷に続く項の奥には、着物の襟と背中との作る谷底を真上から覗くので、脊筋の窪みまで見えて、そして、そのねっとり青白い皮膚の上には例の毒々しい蚯蚓脹れが、ずっと奥の暗くなって見えぬ所までも、いたいたしく続いているのだ。