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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

やがて、私はふっと変なことを思いついた。それは、山の宿というのは、隅田川に沿った細長い町で、そこの隅田川寄りにある小山田家は、当然大川の流れに接していなければならないということであった。考えるまでもなく、私は度々小山田家の洋館の窓から、大川を眺めていたのだが、何故か、その時、始めて発見したかの様に、それが新しい意味を持って、私を刺戟するのであった。

私の頭のモヤモヤの中に、大きなUの字が現われた。Uの字の左端上部には山の宿がある。右端の上部には小梅町(六郎氏の碁友達の家の所在地)がある。そして、Uの底に当る所は丁度吾妻橋に該当するのだ。あの晩六郎氏は、Uの右端上部を出て、Uの底の左側までやって来て、そこで春泥の為に殺害されたと、我々は今の今まで信じていた。だが、我々は河の流れというものを閑却してはいなかったであろうか。大川はUの上部から下部に向って流れているのだ。投込まれた死骸が殺された現場にあるというよりは、上流から流れて来て、吾妻橋下の汽船発着所につき当り、そこの澱みに停滞していたと考える方が、より自然な見方ではないだろうか。死体は流れて来た。