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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

打開けて云うと、恥しいことだけれど、私は、静子の夫の小山田六郎氏が、年も静子よりは余程とっていた上に、その年よりも老けて見える方で、頭などもすっかりはげ上っている様な人だという事を、苦心をして探り出していたのだった。

それが、今年の二月頃になって、静子の手紙に妙な所が見え始めた。彼女は何かしら非常に怖がっている様に感じられた。

「この頃大変心配なことが起りまして、夜も寝覚め勝ちでございます」

彼女はある手紙にこんなことを書いた。文言は簡単であったけれど、その文言の裏に、手紙全体に、恐怖に戦いている彼女の姿が、まざまざと見える様だった。

「先生は同じ探偵作家でいらっしゃる大江春泥という方と、若しや御友達ではございませんでしょうか。その方の御住所が御分りでしたら御教え下さいませんでしょうか」

ある時の手紙にはこんなことが書いてあった。無論私は大江春泥の作品はよく知っていたが、春泥という男が非常な人嫌いで、作家の会合などにも一度も顔を出さなかったので、個人的なつき合いはなかった。それに、彼は昨年のなか頃からぱったり筆をとらなくなって、どこへ引越してしまったか、住所さえ分らないと云う噂を聞いていた。