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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

出てくると老人はもういず、浜子がけげんな顔で、

「ね、あれ、なあに。」

浜子はほんとに知らなかったらしい。音枝が説明するとはじめてわかって、

「いやだあ、便器っていえばいいのにさ、あさがおなんてしゃれてみたり――」

そしてわあっと笑った。しかしとにかく浜子の無邪気さが勝利をしめて、その日一日音枝は思い出し笑いをした。そんな無邪気な浜子なのに……。

四百八十円(タクシー)

もう終電もすみ、一時に近かった。そわそわしている音枝の気も知らず、文吉も浜子もまだ帰ってこないのだ。文吉だけなら毎度のことで平気だったが、もしも浜子が一しょだったらと音枝は気が気でない。母に知らせたくないのだ。母の気づかぬうちに帰ってさえくれば、この前のように父がひとりで帰ったような顔もできるが、こうおそくては心配でならない。父を信じている音枝は、まさか文吉と浜子の間に何かあるなどとは思わないが、疑ってみるとすれば思いあたることはいくらでも出てくる。このごろの浜子は、よく文吉に甘えかかる。

「ねえ、おじさん、おじさんの会社がだめならさ、おじさん個人の秘書にしてよ。そうしてるうちに仕事、きっとみつけるわ。