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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

その内蔵書の一切を明日にでも、手放しするかも知れない状態になって来た。事態は切迫して来たのです。あの夜、最後の交渉を山村は、あの書庫でしたのでしょう。

五十嵐も、伊東も、その前に、早川と争をしているので、再び書庫には入って来ない。家人も、めったに入って来ない事を、山村はよく知っていました。そしてその一巻を、彼は懐にして帰ったのです。

私は彼を訪ねた時、

『文庫を見なかったか?』と質問して見ました。彼は一寸考えていましたが『文庫はテーブルの上にはなかった』と答えた事から彼が犯人だろうと推理したのです。私は帰って来て、彼の言葉を解剖して見ました。

彼はなぜ、嘘をいったのであろう?

彼はあの中から、問題の一巻を盗って来たからです。その事がとっさに、彼を混乱の中に落し入れ彼のまだ残っている良心が、恐怖にぬりつぶされて、その嘘をいわせたのです。その文庫の中から、伊東も自分の証書を盗ったのですが文庫には山村の指紋があり、それに重って、伊東の指紋も検出されました」

「……犯人は山村なりと、情況証拠は総て彼を指しているのに、一つ、どうしてあの密閉された室から彼が出たか……又は、どうして外から、あのカケガイをおろしたか、の一点で、私は苦しんだのです。