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ゆきのやどり
雪の宿り
神西 清
「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页
……貞阿はそう思い定めると、暫くじっと瞑目した。雪が早くも解けるのであろう、どこかで樋をつたう水の音がする。……
やがて座に戻った連歌師は、玄浴主の新たに温めてすすめる心づくしの酒に唇をうるおしながら、物語の先をつづけた。
それは九月の十九日でございました。明け方から凄まじい南の風が吹き荒れておりましたが、その朝の巳の刻なかばに、お屋敷のすぐ南、武者の小路の上の方に火の手があがったのでございます。つづいてその下にも上にも二つ三つと炎があがります。火の手は忽ちに土御門の大路を越えて、あっと申す間もなく正親町を甞めつくし、桃花坊は寝殿といわずお庭先といわず、黒煙りに包まれてしまいました。折からの強風にかてて加えて、火勢の呼び起すつむじ風もすさまじいことで、御泉水あたりの巨樹大木も一様にさながら箒を振るように鳴りざわめき、その中を燃えさかったままの棟木の端や生木の大枝が、雨あられと落ちかかって参ります。やがて寝殿の檜皮葺きのお屋根が、赤黒い火焔をあげはじめます。お軒先をめぐって火の蛇がのたうち廻ると見るひまに、囂と音をたてて蔀が五六間ばかりも一ときに吹き上げられ、御殿の中からは猛火の大柱が横ざまに吐き出されます。