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ゆきのやどり
雪の宿り
神西 清
「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页
『理ハ寂然不動、即チ心ノ体、気ハ感ジテ遂ニ通ズ、即チ心ノ用』……あの世界だ。あのおやじ様は道理にも明るく経綸もあるよい人だ。只惜しいかな名利が棄てられぬ。信頼や信西ほどの実行の力も気概もない。そして関白争いなどと云うおかしな真似をしでかしては風流学問に身をかわす。惜しい人物だ。それにつけても兄様の一慶和尚は立派なお人であったぞ。いまだに覚えている、『儒教デモ善ト云フモ悪ニ対スルホドニ善ト悪トナイゾ、中庸ノ性ト云フタゾ』などと、幼な心に何の事とも分らず聞いておったあの咄々とした御音声が、いまだに耳の中で聞えている。そもそも俺のような下品下生の男が、実理を覚る手数を厭うて空理を会そうなどともがき廻るから間違いが起る。そうだ、帰るのだ、やっと分ったよ。虎関、夢窓、中巌、義堂、そして一慶さま……あの懐しい師匠たちの棲まう伝統へ、宋の学問へ、俺は帰るのだ。」
そこでようやく言葉を切られますと、そのまま石からお腰を上げて、こちらは見向きもなさらず丘を下りて行かれます。わたくしは呆れて追いすがり、「ではこの先どこへおいで遊ばす」と伺いますと、「明日にも近江へ往く、あの瑞仙和尚がおられるのだ。