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かみなり

雷

海野 十三

「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,706 字 · 40 页

青空文庫

儂はここに居るが……何か用か」

「やあ松さん、たいへんだ。お前の建てた半鐘梯子に雷が落ちたぞ。バラバラに壊れて、燃えちまった。下に繋いであった牛が一匹、真黒焦になって死んでしまったア」

「ええッ。……」

呆然たる松吉の方を、それ見たかといわん許りの眼つきで睨んで、北鳴四郎は沛然たる雨の中を、稲田老人と共に駈けだしていった。

4

いまは瀬下英三に嫁入った娘お里の、曾ての情人北鳴四郎を、稲田老人夫妻は二階へ招じあげて、露骨ながらも、最大級の歓待を始めたのだった。

そこには、酒の膳が出た。近所で獲れる川魚が、手早く、洗いや塩焼になって、膳の上を賑わしていた。

「折角ですが、酒はいただきませぬ」

「まあ、そう仰有らずに、昔の四郎さんになってお一つ如何」

と老婆は執拗にすすめる。

「いや、博士論文が通るまでは、酒盃を手にしないと誓ったので、まあ遠慮しますよ」

「へえ、四郎さんが、博士になりなさるか。……」

と、老婆は稲田老人と目を見合わせて、深い悔恨の心もちだった。お里の今の婿の英三は、一向に栄えない田舎医者。老人の腎臓を直したのが、関の山、毎日自転車で真黒になって往診に走りあるいているが、宝の山を掘りあてたという話も聞かなければ、博士はおろか、学士さまになることも出来ないらしい。