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しんさいにっし
震災日誌
喜田 貞吉
「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页
門内には避難者が群集している。様子を聞こうと門衛所の前へ行くと、「喜田先生ではありませんか」と声をかける生徒がいる。よく見るとこれは原〔(勝郎)〕博士(京大文学部長)の令息が警戒に立っておられるのだ。
帝大の大部はすでに無残にも焼け落ちている。門衛に就いて聞くと、法文両学部は全滅で、図書館の書庫まで焼けてしまったという。何という情ないことであろう。ここには金で補いのつかぬ多くの書籍があったはずだのに。しかし史料編纂掛が無事だと聞いて、国史科のためには思わず万歳を唱えざるを得なかった。
大学の前は避難者で一杯だ。その中を押しわけて本郷三丁目の十字路へ来てみると、角の長島雑貨店等二、三戸を残したほかは、本郷座の方へかけて見渡す限り一面の火だ。これではたとい水があったとて消防の手のまわるはずはない。猛火は容赦なくあらゆる物を焼いて、下谷・神田・浅草の方まで一つになっているのだという。湯島の和田英松君(史料編纂官)のお宅が気にかかるがとても寄りつかれそうもない。同君は自分ら仲間ではことに蔵書家として知られている人だ。浅草には黒川真道君や大槻如電翁がおられる。