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しんさいにっし

震災日誌

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页

青空文庫

○○が五十人ばかり林町方面へ入り込んだから警戒せよといい継いで来る。警視庁から三十分間交通停止の命があったとの声が、順次伝わって来る。疲れ切った避難者も、警笛を鳴らして駆けて来る自動車も、いっせいに皆止められる。某署の刑事までが抑留せられて、おりから巡回の正服巡査に証明を求めているものもある。「私は急用があって署へ帰るものだがどうしてもここを通してくれません」というのだ。民衆警察の人達の前には、身分証明の警官手帳などは何の権威もない。「品物が何の証拠になる。盗んで来れば誰がでも持てる」という見幕だ。自転車上から赤筋の入った提燈を振りかざして、「ただいま松坂屋の火が本郷三丁目までやって来た、皆さん避難の用意をなさい」と触れながら駆けて来る人がある。それを聞いて気の早い人は、家財の取り纏めに取りかかる。婦人や小児を郡部の懇意な先へ避難さしたというのもある。すでにH博士の令息などは、久堅町から家財を纏めて護国寺前へ避難して来た。新聞の号外がぞくぞく電柱や板塀に張出される。いずれも恐ろしい記事の限りで、中には○○が二百人抜刀で某所へ切り込んだなどと麗々しく書いたのもある。