轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
「文学界」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页
しかし、彼の気の小さい、善良な性格を知っている同僚たちは、彼が投身自殺をしたことを信じて疑わなかった。花蓮港の荒浪に呑まれたが最後、屍体が発見されることはまず絶望と思わなければならないのである。
失踪か、自殺か、しかし何れにしても近藤巡査はテワスのもとへは帰って来なかった。急に広く見えだした官舎のなかに、テワスは独りぽつねんといつまでも夫の帰りをまっていたが無駄であった。結局、迎えに下山した兄モーナルーダオに連れられて、ふたたび嶮しい能高を越えて霧社に帰るよりか方法はないのである。
高い峰々の、細い嶮しい崖径を通る時、傷心の妹も、その兄も黙然として歩いた。いつか近藤と同じい径を歩いた時と全く事情も気もちもちがっていて、ただ、崖に白い小さな木朝顔の花が咲いており、頭の上を鶯の音がよぎってゆくのばかりが、前そのままであった。
しかし、霧社に帰ってからも、テワスは夫が今なお生きていることを少しも疑ってはいなかった。
兄の家に落ちついたのち、彼女は夫の古い同僚や、自分の蕃人仲間やにはっきり語っていたものであった。
「近藤はいつか、きっとわたしのところへ帰ってくるよ」