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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
「文学界」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页
丁度、その半ば頃に頭目モーナルーダオの住いがあった。やすむのには頃合いである。蕃人たちは往き帰りに、その家にたちよる。自然、赤く腫れあがっている肩を見せ、賦役に対する不満を語る、ということになるのである。
もとよりモーナルーダオは妹テワスのこと以来、内地人に対する反逆の心を忘れたことはない。それが今改めて同じい種族の仲間から不満を聞かされては、いっそうその心は募るばかりである。無口なルーダオは彼等の談話には黙々として返事もしなかったが、深く期するところがあったのである。
その秋――
霧社は珍しい豊作であった。粟祭りが賑やかに行われた。粟酒をつくっての、酒もりも各戸でいくたびか行われた。そして、そういう酒もりが開かれるたびに、若者たちが聞かされるのは、老人たちの酒の機嫌での気焔であった。
「むかし、俺たちが若かった頃は……」
これは内地の田舎などでよく見かける風景である。しかしこの場合、気焔は結局首をいくつきった、という自慢話に落ちるから危険である。老人たちに首きりを煽動する意思があったわけではない。しかし、結果的には同じであった。そういう自慢話を聞いたのち、若者たちは口に出してこそ言わないけれど、腹のなかでは考えているのである。