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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
「文学界」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页
「俺たちだってやろうとさえ思えば……」
その若者たちの心の動きを、じっと静かに見まもっているのは頭目のモーナルーダオであった。社の人の心の動きは、ひとりでにすべて彼の方に都合よく動いてゆくようである。彼ははやる心をおさえつけて、ひたすら時期をまっていた。
秋晴れの午後であった。
モーナルーダオはマヘボ社の親戚ジアスアベバの家に呼ばれていた。その家と同じい社に住むアイシユドウとは、永い間、不和の状態に在った。そのもつれが、両家の結婚によって漸く解けることになった。二重の喜びに張られた祝宴に、彼も連っていたわけである。
酒は快くまわって、モーナはまっ赤な顔をしていた。モーナは上機嫌であった。間もなく酒の酔いを醒ますために彼は危い脚つきで表に出た。丁度、その時であった。明るい表の陽ざしのなかを、分署の吉村巡査が急ぎ脚にとおりかかった。
「こんにちは……」
モーナは素朴な笑顔を浮かべて挨拶した。吉村巡査も愛想よく答えた。
「やあ、いい機嫌だな」
「よって行きなさい」
「きょうは駄目だ。公務の途中だから……」
巡査がそのまま行きすぎよう、とすると、モーナはあとから追いすがるようにして、またすすめた。