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きりのばんしゃ

霧の蕃社

中村 地平

「文学界」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页

青空文庫

「自分がやられないうちに、内地人をやっつけなければ……」

かねて心の奥底ふかくに育てはぐくんできた計画を、この際彼は一挙に実行に移そう、と思いたったのである。心の秘密、つまり霧社在住の内地人をみな殺しにする、というその恐るべき計画を、モーナルーダオは先ず最初、自分の息子たちに打ち明けた。長男も次男も父の計画に否応のある筈はなかったが、わけても勇猛な次男のタダオモウナオは積極的で、今すぐにでも事をあげたい姿勢を示した。父親はそれをおさえ、しばらく時期をまつように、そしてそれまでは決して他言しないように、くれぐれもさとした。

高台の桜の葉は落ちつくし、それをとりまく辺りの山々がようやく紅葉し始めた頃であった。

モーナルーダオの耕作小舎には、人知れず数名の男たちが毎日のように集り、なにごとかを謀議しつづけていた。それはモーナルーダオを始め付近に住む蕃人ヒポサツポ、ヒポアリス、タイモポホツクたちの三人で、すべて内地人に対して、深い反逆の心をいだいているか、或いは首きりをしなければ運命を拓くことができない、どんづまりの生活に落ちこんでいるか、その何れかの人間たちであった。