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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
「文学界」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页
暗い土間にかがみこんで、酒ばかり飲んでくらした。
女に捨てられて、そういう風に懶怠に流れているヒポサツポの姿を見ると、同じい社に住む蕃人たちは心の底から軽蔑してしまった。
尚武的傾向が強く、日本の古武士的気質に通ずるところのある彼らにとっては、失恋して哀愁に生きるなどというのは、にがにがしい、沙汰の限りのことなのである。人々は露骨に彼に軽蔑の流し目をくれるようになった。
女には捨てられ、近隣の人々にはうとんぜられ、ヒポサツポは生きる瀬がなかった。飲む酒は口ににがく、酔えば胸には悲しさがあふれてくるばかりである。運命を新しい方向に転回させたいと焦ったが、まるで穴蔵に落ちこんだように、どうすることもできない。まったく参りきってしまった。
しかし、彼はある時ふっと一つの名案を思いついた。
「そうだ。首伐りをすればいい。首を伐って武勇を示せば、人々の尊敬をかち得るし、あわよくば再び女までも手に入れることが出来るかもしれない」
いったい昔から生蕃が出草(首伐り)するのには、例えば咒のためであるとか、仇敵関係に在る他種族に復讐するためであるとか、狩場の争いのためとか、いろいろな理由がある。