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きりのばんしゃ

霧の蕃社

中村 地平

「文学界」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页

青空文庫

しかし、中で最も多いのは好きな女に相手にされなかったり同族に見くびられたりして意気があがらない時に、気勢をあげるための手段として行う場合である。ヒポサツポもまた同じ理由から、出草して武勇を示し、大に面目を回復したい、と考えたのである。

いったいに彼の場合ばかりではなく、首伐りというのは絶対の行事である。それに成功し得さえすれば、神は自己の過去も将来もすべてを是認したもうた、と考えるのである。

しかし、その計画を思いつくと同時に、ヒポサツポは忽ち当惑せねばならなかった。今は出草は内地人のために厳しく禁じられてしまっている。敢て冒せば、それは自分の死を意味するのである。複雑な煩悶のなかに、彼が自棄な、焦々した感情をもてあつかいかねている時、モーナルーダオから重大な秘密をうち明けられた。彼にとっては躊躇すべき理由がなかった。計画が成就すれば、彼は全山の英雄である。仮に失敗に帰したとしても、死あるのみである。その死は単なる出草の場合でさえも、今は逃れ得ないのである。

暴動の同じい首領の一人ヒポアリスはこのヒポサツポの隣家に住んでいる。

彼の父は明治四十三年本島人脳丁(樟脳採取人夫)の首を伐って逃亡した。