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きりのばんしゃ

霧の蕃社

中村 地平

「文学界」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页

青空文庫

それはひとつにはモーナルーダオという卓れた統率の才がいたからではあるが、ひとつには蕃人の智能が驚くほどすすんできたためである。事件が起きたのち、内地人の関係者たちは彼らに文化を与えたために生じた皮肉な結果に、深刻な苦笑をもらさざるを得なかった。

事件が起きた日、昭和五年十月二十七日。

朝まだ早く、辺りの山々が暗い闇につつまれている時分。

マヘボ駐在所の杉浦巡査が自宅に熟睡していると、突然表戸をたたく者がいる。眠い眼をこすりながら、巡査が不審な思いに枕の耳を傾けていると、つづいて頭目モーナルーダオの声が聞えてきた。

「運動会が始まるよ。もう起きなさい」

巡査は寝ぼけ声で答えた。

「煩いな。まだ早いじゃないか」

「早くないよ。遅いよ。もう運動会始まるよ」

あまり執拗にすすめるので、半信半疑で巡査はしぶしぶ布団をはなれた。そして、ネルの寝巻き姿のまま、表戸をあけた。

「なんだ、まだまっ暗らじゃないか」

ぶつくさつぶやきながら、巡査が一歩、表へ脚をふみだした――その瞬間であった。とっさにモーナルーダオの巨きな体がおおいかぶさるように組みついてきた。電撃に打たれでもしたもののように、巡査の五体は半醒の状態から醒めた。