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あおふくのおとこ
青服の男
甲賀 三郎
「現代」1939(昭和14)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,026 字 · 29 页
望月刑事の報告を聞いた榎戸警部は煙草の灰を叩き落しながらいった。
「えゝ、どうも犯罪はないらしいですよ。卓一の死因が病死だとするとね」
「念の為再検視をしたが、全く狭心症の為と判明した。だから、殺人事件では絶対にない。それに之が逆に信造が死んだのだとすると、卓一が財産を相続する事になって、多少の疑惑を生ずるが、卓一が死んだのじァね。何だろう、卓一の遺産なんてものはないんだろう」
「遺産どころか借金が残っていますよ。遺恨か何かなら知らず、金の為に卓一を殺す者はないでしょう」
「第一病死じゃ問題にならん。然し、卓一は何だって、人のいない別荘へ戸締を破って這入ったんだろうね」
「そこが一寸不審に思われるんですが、何しろ卓一という男は、他人のものと自分のものを区別しないというような男で、何事も行き当りばったり、気分の動くまゝにやるという人間ですから、他人といっても信造の別荘ですし、締り位破って這入るのは平気だろうと思います。それに考えて見れば、奴ア帰りの汽車賃がないんだから、信造のいるいないに係らず、あそこへ泊るよりなかったでしょう。翌日は信造なり、永辻なりへ電報を打って、金を送らせる心算だったのでしょう」