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あおくさ

青草

十一谷 義三郎

「文芸時代」1924(大正13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,645 字 · 14 页

青空文庫

彼の肩から二の腕へかけて真白な肉瘤が盛り上りその上に汗がいちめんに滲んでいた。舟は彼のからだとともに劇しく揺れ、空には星が輝き、そうして彼らは涯しのない淋しさの中へ出ていった。

彼女は片手を兄の膝に載せ、片手でしっかりと舟縁りを掴んでいた。風に乱された彼女の髪が、兄の没表情な頬の上に散りかかってゆく。

「いやだ、いやだ。」そう言って彼女は身を震わせた。

「寂しいの。ばかだなあ。」そして兄は微笑んだ。

弟は艪を止めて舟を流した。彼の大きな胸は彼らの方に向いて緩く波打っていた。

「疲れたろう。」と兄が言った。

「なあに。いけるところまでいくとおもしろいんだ。」

「そうだね。」

もうすっかり闇くなっていた。近くの海面からイナの跳ねる音がひびいてきた。そして水の中を白坊主のような水母がいくつも浮いて通った。彼女はあたりを見廻した。

「もし舟が覆ったらどうしようかしら。」

それを聞くと弟は大声で笑った。それから彼は言った。

「舟を漕ぎながら、ふいと気が違ってしまうと愉快だと思うがな。」

今度は兄が声高に笑った。

「結局どうなるんだろう。」

「誰が?」

「誰って?」

「結局死ぬんさ。