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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

08 氷献上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,674 字 · 36 页

青空文庫

にも、『六月朔日、賜氷の節御祝儀、加州侯より氷献上、お余りを町家に下さる』と見えている。

賜氷の節、また氷室の御祝儀ともいって、三月三日の桃の節句、五月五日の菖蒲の節句、九月九日の菊の節句についで古い行事で、仁徳天皇の御代に山ノ辺福住の氷室の氷を朝廷に奉って以来、六月朔日を氷室の節といい、西の丸では、富士氷室の御祝という儀式があり、大奥、御台所は伺候の大小名に祝いの氷餅をくださる。

町家では、前の年の寒のうちに寒水でつくった餅を喰べてこの日を祝い、江戸富士詣りといって、駒込の真光寺の地内に勧請した富士権現に詣り、麦藁でつくった唐団扇や氷餅、氷豆腐などを土産にして帰る。

六月朔日の氷室のお祝に、加州侯からお雪をさしあげることは、加賀さまの氷献上といって、これも古い行事のひとつ。

延喜式の古式にのっとって、前の年の寒のうちに屋敷の空地の清浄な地に、深さ二丈ばかりの大穴を掘り、そこに新筵を敷いて雪をつめた桐の大箱をおさめる。

そのまわりを数万坪の雪でかこい、雪の上に筵を厚くかけて高く土盛りをする。こうして春を過し、六月朔日、土用のさなかに穴をひらき、まわりの雪をのけて桐箱入りの氷を駕籠にのせ、一ツ橋御門から入ってすぐ御車寄まで行く。