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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页

青空文庫

私は黙っていた。

「おい。怖いのか。怖いのだろう」

彼の叫びはつづく。狂った光が私の顔を必死にさがしているのである。霊気のみの肉体だったが、眼の光は狂ったけだものだった。

「もとより怖いよ。いやな話だ」

と私は答えた。高木は私が正直にそう言うことを多分好まないと思ったから、私は冷くそう答えた。

けれども私の答の結果は私の予期を越えて、彼の顔に無残な落胆が表れた。そうして、突然口を噤んでしまったのである。

病床の顔は苦痛に歪み無残であったが、その死顔はむしろ安らかであった。ひと握りの小さな悲しい顔であった。

お通夜や又何やかや用達の道々などで、私は高木の妹から、彼が甚だ好色漢で、宿屋へ泊れば女中を口説く、或時バーの女に惚れ、どういうわけだか片足に繃帯まいてわざわざ松葉杖に縋りながら渋面つくって通うような愚かなこともしたという。そういう話をきいた。その時私は再びあの幼い笑顔をこの人の顔に見出した。

「助平は私たちの親ゆずりの宿命ですから仕方がありません」

笑いながら言っている。昔は私が見逃していた激しい神経のこまかな波が笑いの裏にきらめいていた。激情のあげくどうにも仕方がない笑いであった。