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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页

青空文庫

五

「誰でも、さ。誰の魂でも、路傍でない魂なんて、あるものか。夫婦は一心同体だなんて、馬鹿も休み休み言うがいいや」

「なによ。私のからだになぜさわるのよ。あっちへ行ってよ」

「いやだ。夫婦とは、こういうものなんだ。魂が別々でも、肉体の遊びだけがあるのだから」

「いや。何をするのよ。もう、いや。絶対に、いや」

「そうは言わせぬ」

「いやだったら」

女は憤然として私の腕の中からとびだした。衣服がさけて、だらしなく、肩が現われていた。

女の顔は怒りのために、こめかみに青い筋がビクビクしていた。

「あなたは私のからだを金で買っているのね。わずかばかりの金で、娼婦を買う金の十分の一にも当らない安い金で」

「その通りさ。君にはそれが分るだけ、まだ、ましなんだ」

五

私が肉慾的になればなるほど、女のからだが透明になるような気がした。それは女が肉体の喜びを知らないからだ。私は肉慾に亢奮し、あるときは逆上し、あるときは女を憎み、あるときはこよなく愛した。然し、狂いたつものは私のみで、応ずる答えがなく、私はただ虚しい影を抱いているその孤独さをむしろ愛した。

私は女が物を言わない人形であればいいと考えた。