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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页

青空文庫

卓の上の徳利とコップが跳ねかえって落ちて割れ、女は刑事にむしゃぶりついて泣き喚いた。

「この人は私の亭主だい。私の亭主をどうするのさ」

私はこの言葉は気に入った。然し女は吠えるように泣きじゃくっているので、スタンドの卓を飛び降りた疾風のような鋭さも竜頭蛇尾であった。刑事はいくらか呆気にとられたが女の泣き方がだらしがないので、ひるまなかった。

「この人は本当にこの女の人の旦那さんです」

と私も出て行って説明したが、だめだった。男は私に黙礼して、落付いて、肩をならべて行ってしまった。そのときだ、ちょうどそこに露路があり、露路の奥から私の女が出てきたのだ。女は黒い服に黒い外套をきており、白い顔だけが浮いたように街燈のほの明りの下に現れたとき、私はどういうわけなのか見当がつかなかったが、非常に不快を感じた。私達のつながりの宿命的な不自然に就て、胸につきあがる怒りを覚えた。

私の女は私に、行きましょう、と言った。当然私が従わねばならぬ命令のようなものと、優越のようなものが露骨であった。私はむらむらと怒りが燃えた。私は黙って店内へ戻って酒をのみはじめた。私の前には女と男が一本ずつくれた二本の酒があるのだが、私はもはや吐き気を催して実際は酒の匂いもかぎたくなかった。