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いずこへ
風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇
坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页
初めのうちは寧ろ病院へ行くのが珍らしくもあった。厳めしい石門を潜ってだらしなく迷い込む瞬間から、私も一人の白痴のようにドンヨリしてしまう精神状態が気に入ったり、それに私は、その頃辰夫のほかに全く友達を持たなかったので退屈を持余していたから。それに又全快し乍ら狂人で暮す此の秀才の物語るところが、その奇怪な心境を通して眺められた此の病院の様々な風変りな出来事や、それに対する鋭いそして奇妙な彼の観察や批評等、全てが興味深いもので、いわば私は全く打算的に、面白ずくで此の病院へ日参していた。
ところが暫くするうちに、私達の間には話の種が尽きてしまった。私達は面会の時間中ボンヤリと屈託して、沈黙に悩むあまり、時々自分乍ら思いもよらない言葉を不意に喉の外へ逃がして気まずい目を伏せ合ってしまう。心に泛ぶこともないので、明日からは断々乎として訪問を止そうと、私は頻りに其の愉しさを思いはじめるのであった。すると鋭敏な辰夫は勝れた神経で忽ち私の胸中を推察し、別れ際には尚劇しく慟哭して、「迷惑だろうけれど明日も又、ね。君が来てくれないことになると僕は夕暮れを待つ力も失ってしまう……」