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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页

青空文庫

私の魂は荒廃していた。私の外貌は悠々と読書に専念していたが、私の心は悪魔の国に住んでおり、そして、悪魔の読書というものは、聖人の読書のように冷徹なものだと私は沁々思い耽っていたのである。

悪魔というものは、ただ退屈しているものなのである。なぜなら、悪魔には、希望がなくて、目的がないのだ。悪魔は女を愛すが、そのとき、女を愛すだけである。目的らしいものがあるとすれば、破壊を愛しているだけのことだ。

私は美しいものは好きである。あるとき食堂の前で行列していたら工場からの帰りの上品なお嬢さんが「食券がいるのでしょうか」と私にきいた。戦争というものがなければこんな苦しみを知る筈のない娘であった。私は困惑する娘に食券を渡して逃げてきたが、私は時々こういうオッチョコチョイなことをやる。何も同情する必要はないではないか。一人の人への同情は不合理なものであり、一人の人へ向けられる愛情は男と女の二人だけの生活のためにのみ向けられるべきである筈である。さもなければ、あらゆる女に食券をやるべきだ。あの可愛い娘は空襲で死んだかも知れず、淫売になったかも知れない。それはあの娘自体が自らやりとげ裁かねばならぬ自分だけの人生なので、私の生活とその人の生活と重なり合うものでない限り、路傍の人であるのが当然で、キザな同情などは止した方がよろしい