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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页

青空文庫

又、身辺の清潔を好んだ。夏になると、洗面器に水を入れ、それに足をひたして、壁にもたれていることがあった。夜、私がねようとすると、私の額に冷いタオルをのせてくれることがあった。気まぐれだから、毎日の習慣というわけではないので、私はむしろ、その気まぐれが好きだった。

私は常に始めて接するこの女の姿態の美しさに目を打たれていた。たとえば、頬杖をつきながらチャブ台をふく姿態だの、洗面器に足をつッこんで壁にもたれている姿態だの、そして又、時には何も見えない暗闇で突然額に冷いタオルをのせてくれる妙チキリンなその魂の姿態など。

私は私の女への愛着が、そういうものに限定されていることを、あるときは満たされもしたが、あるときは悲しんだ。みたされた心は、いつも、小さい。小さくて、悲しいのだ。

女は果物が好きであった。季節季節の果物を皿にのせて、まるで、常に果物を食べつづけているような感じであった。食慾をそそられる様子でもあったが、妙に貪食を感じさせないアッサリした食べ方で、この女の淫蕩の在り方を非常に感じさせるのであった。それも私には美しかった。

この女から淫蕩をとりのぞくと、この女は私にとって何物でもなくなるのだということが、だんだん分りかけてきた。