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いずこへ
風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇
坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页
電燈の集金人がともかく一応了解して引上げたあとでは、板の間の上に気を失って、僕は自然に泣いていた。気がついたとき板の上に一握の涙がたまっていて、昔、涙で鼠を書いた絵描きの子僧がいたというが、僕の方は一の字をひっぱるだけの力もなかった。
ともかく医者にかかってみようと決意して、このとき葛巻に電報を打った。どういう風にして料金をつくり、どういう風に歩いて電報を打ったかという大事なことが全然記憶にないのである。ところがこの返電が早かった。待つ身のつらさというが、予期し得ぬ早さのうちに電報為替がとどいた時の喜びは忘れられぬ。始め僕は葛巻から為替がとどいたとして、いったい郵便局まで歩くことができるだろうかということを甚だ不安に思っていた。ところが電報為替がとどく。そのよろこびの為ばかりで勇気は忽ち百千倍、郵便局まで歩くばかりか駈けだすことすら出来そうな起死回生の有様である。
尚又一層馬鹿なことには、まったく馬鹿ゲタ話である。為替を握って家をでる、十間ぐらい歩いたところで、坂口さん、僕を呼びとめる男に会った。三宅勇蔵である。この春大学を卒業し、京都のJO撮影所の脚本部員となり、僕を訪ねてきたのであった。