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いずこへ
風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇
坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页
というものはないのだから、標準などはどこへ置いてもどうせたかが標準にすぎないではないか。私はただ、私のこの標準が父の姿から今日に伝流している反感の一つであることを思い知って、人間の生きている周囲の狭さに就て考え、そして、人間は、生れてから今日までの小さな周囲を精密に思いだして考え直すことが必要だと痛感する。私は今日、政治家、事業家タイプの人、人の子の悲しみの翳をもたない人に対しては本能的な反撥を感じ一歩も譲らぬ気持になるが、悲しみの翳に憑かれた人の子に対しては全然不用心に開け放して言いなり放題に垣を持つことを知らないのである。
父は幼い心を失っていた。然しそれは健康な人の心の姿ではないので、父は晩年になって長男と接触して子供の世界を発見しその新鮮さに驚くようになった。洋画を見たり、登山趣味だの進歩的な社会運動だの、そういうものに好奇の目を輝やかせるようになったのだが、それはもうただ知らない異国の旅行者の目と同じことで、同化し血肉化する本当の素直さは失っている。彼自らの本質的な新鮮さはなかったのである。
私は私の心と何の関係もなかった一人の老人に就て考え、その老人が、隣家の老翁や叔父や学校の先生よりも、もっと私との心のつながりが稀薄で、無であったことを考え、それを父とよばなければならないことを考える。