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ふうりゅうばけものやしき

風流化物屋敷

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,228 字 · 40 页

青空文庫

人を訪問した時もこれだけは欠かしたことがなかった。さてひと眠りして起きると権八を呼んで将棋盤を出させた、「将棋とは結構な御証文でござりますな、へえ、わっちはもうおからっぺたでござりましょうが」「おまえ時どき妙なことを云うなあ――」平之助は盤の上へ駒を並べながらこう云った、「お嗜なみやあしゃらないだの、おそっきゅうだの結構な御証文だの、おからっぺただの……それは広島の方言か」「法眼だか検校だか知りませんが、へえ、へえええ、まだそのお武家ことばをよく存じやしゃらねえので」「そうか、しゃらねえのか、ふむ――」こんなことを云って並べたのを見ると、迎え中飛車で中盤どころまで指掛けてある駒組だった。てっきりお相手と楽しみにしていた権八がっかりして、「旦那お独りでお指しやしゃ、しゃしゃ」「舌を噛むなよ」「……しゃるでござりましょうがな」「そんな詰らないことはしゃりあしない、相手はちゃんとあるよ」「というと、このお土地の方で?」「なに江戸だ」「江戸」と権八は唾を喉へ突掛けた、「と仰しゃると、その、ずっと遠くのあのお江戸でござりますか」「そうだ、ずっと遠くの江戸だ」