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かみのけ

髪の毛

佐々木 邦

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,242 字 · 13 页

青空文庫

「まあ、よくお出下さいました。さあ、何うぞ」

と文子さんはイソ/\として迎えた。子供のない若奥さんが二人寄れば、話題は主として良人の身の上である。中川夫人は御亭主を悉皆支配しているものゝ、矢張り悪くないと見える。丈夫一式でも連れ添っていれば情愛が移る。

「奥さん、お宅のミシンは狂いませんの?」

と中川夫人はニコ/\しながら訊いた。

「買ったばかりで、未だ殆んど使いませんのよ」

と文子さんは有りのまゝに答えた。

「いゝえ、生きている方のよ」

「あらまあ、オホヽヽヽ」

「家のはこの二三日狂っていますのよ。私、腹が立ちましたから、揺振ってやりましたわ」

と中川夫人は口八丁手八丁である。文子さんは仲人から斯ういう教育を受けるのだから、井口君も追々窮迫せざるを得ない。

「奥さん、私も今朝一寸……」

「まあ、何がございましたの?」

「一寸言って上げましたわ。胸がドキ/\するものね」

と文子さんは全くの初心で皮切りだった。

「意気地のない人ね。何を仰有って?」

「奥さんから伺った秘伝のことを」

「秘伝って、何の口?」

「メートルですわ」

「まあ、然う? 井口さんでも矢張り腑に落ちないことがございますの?」