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ぜにがたへいじとりものひかえ

鬼の面 ――銭形平次傑作選3

野村 胡堂

野村胡堂『鬼の面 ――銭形平次傑作選3』。同一底本的分册已合并为一书。收入:銭形平次捕物控、銭形平次捕物控。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,312 字 · 57 页

青空文庫

銭形平次捕物控

一

一

「親分、向島は見頃だそうですね」

ガラッ八の八五郎は、縁側からニジリ上がりました。庭いっぱいの春の陽ざし、平次の軒にもこの頃は鴬が来て鳴くのです。

「そうだってね、握り拳の花見なんかは腹を立てて帰るだけだから、お前に誘われても付き合わねえつもりだが――」

平次は相変らず世上の春を、貧乏くさく眺めているのでしょう。

「へッ、不景気ですね、銭形の親分ともあろうものが――。駒形の佐渡屋が、三日に一度でも、七日に一度でも宜い、銭形の親分が見廻ってくれたら、用心棒代と言っちゃ悪いが、ほんの煙草銭だけでも出しましょうと、執こく持込んだのも断ったでしょう」

「馬鹿なことを言え。金持の用心棒になるくらいなら、俺は十手捕縄を返上して、女房に駄菓子でも売らせるよ。向島へ誘い出そうというのも佐渡屋に誘われたのじゃないか。あすこには結構な寮がある筈だが」

「呆れたものだ」

「俺の方がよっぽど呆れるよ。そんなに向島が眺めたかったら、縁側に昇って背伸して見ろ、梁に顎を引っかけると、丑寅の方にポーッと桜が見える――」

「冗談言っちゃいけません。いくら背伸したって、明神下から向島が見えますか」