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ぎょげんき

魚玄機

森 鴎外

「中央公論」1915(大正4)年7月

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 9,866 字 · 20 页

青空文庫

「温鍾馗と云うのは、恐らくは太原の温岐の事だろう。またの名は庭、字は飛卿である。挙場にあって八たび手を叉けば八韻の詩が成るので、温八叉と云う諢名もある。鍾馗と云うのは、容貌が醜怪だから言うのだ。当今の詩人では李商隠を除いて、あの人の右に出るものはない。この二人に段成式を加えて三名家と云っているが、段はやや劣っている」と云った。

それを聞いてからは、妓等が令狐の筵会から帰る毎に、玄機が温の事を問う。妓等もまた温に逢う毎に玄機の事を語るようになった。そしてとうとうある日温が魚家に訪ねて来た。美しい少女が詩を作ると云う話に、好奇心を起したのである。

温と玄機とが対面した。温の目に映じた玄機は将に開かむとする牡丹の花のような少女である。温は貴公子連と遊んではいるが、もう年は四十に達して、鍾馗の名に負かぬ容貌をしている。開成の初に妻を迎えて、家には玄機とほとんど同年になる憲と云う子がいる。

玄機は襟を正して恭く温を迎えた。初め妓等に接するが如き態度を以て接しようとした温は、覚えず容を改めた。さて語を交えて見て、温は直に玄機が尋常の女でないことを知った。何故と云うに、この花の如き十五歳の少女には、些の嬌羞の色もなく、その口吻は男子に似ていたからである。