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くろてぐみ

黒手組

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,978 字 · 36 页

青空文庫

私の実家は極く貧乏で、私自身もこうして温泉場に来てまで筆稼ぎをしなければならぬ程ですが、伯父はどうして中々金持なのです。二三の相当な会社の重役なども勤めていますし、十分「黒手組」の目標になる資格はありました。日頃なにかと世話になっている伯父のことですから、私は何を措いても見舞に帰らなければなりません。身代金をとられて了うまで知らずにいたのは迂濶千万です。きっと伯父の方では私の下宿へ電話位はかけていたのでしょうが、今度の旅行はどこへも知らせずに来ていましたので、新聞の記事になってから始めてこの不祥事を知った訳なのです。

そこで、私は早速行李を纏めて帰京しました。そして旅装を解くやいなや伯父の邸へ出掛けました。行って見ますと、どうしたというのでしょう。伯父夫婦が仏壇の前で一心不乱に団扇太鼓や拍子木を叩いて御題目を唱えているではありませんか。一体彼等の一家は狂的な日蓮宗の信者で、一にも二にも御祖師様なんです。ひどいのは、一寸した商人でさえも、先ず宗旨を確めた上でなければ出入を許さないという始末でした。併しそれにしても、いつも御勤めをする時間ではないのにおかしなこともあるものだと思い、様子を聞きますと、驚いたことには、事件はまだ解決していないのでした。