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くろてぐみ
黒手組
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,978 字 · 36 页
身代金は賊の要求通り渡したにも拘らず、肝心の娘が未だに帰って来ないというのです。彼等が御題目を唱えていたのは、所謂苦しい時の神頼みで、御祖師様の御袖に縋って娘を取戻して貰おうという訳だったのでしょう。
ここで一寸当時の「黒手組」の遣り口を説明して置く必要がある様です。あれからまだ数年にしかなりませんから、読者諸君の内には当時の模様を御記憶の方もあるでしょうが、彼等は極った様に、先ず犠牲者の子女を誘拐し、それを人質にして巨額の身代金を要求するのです。脅迫状には、いつ何日の何時にどこそこへ金何円を持参せよと詳しく指定があって、その場所には「黒手組」の首領がちゃんと待構えています。つまり身代金は被害者から直接賊の手に渡されるのです。何と大胆なやり方ではありませんか。而もそれでいて彼等には寸分の油断もありません。誘拐にしろ、脅迫にしろ、金円の受授にしろ、少しの手掛りも残さない様にやってのけるのです。又被害者が予め警察に届出て、身代金を手渡す場所に刑事などを張込ませて置きますと、どうして察知するのか彼等は決してそこへやって来ません。そして後になってその被害者の人質は手ひどい目にあわされるのです。