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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
と真斎は苦し気な呼吸の下に答えた。「館の暦表の中に、帰国の船中蘭貢で身を投げた、ディグスビイの追憶が含まれているのです」
「なるほど、声のない鎮魂楽ですね」と法水は恍惚となって云った。「なんだかジョン・ステーナーの作風に似ているような気がする。支倉君、僕はこの事件であの四重奏団の演奏が聴けようとは思わなかったよ。サア、礼拝堂へ行ってみよう」
そうして、私服に真斎の手当を命じて、この室を去らしめると、
「君は何故、最後の一歩というところで追求を弛めたのだ?」と熊城はさっそくに詰り掛ったが、意外にも、法水は爆笑を上げて、
「すると、あれを本気にしているのかい」
検事も熊城も、途端に嘲笑されたことは覚ったけれども、あれほど整然たる条理に、とうていそのままを信ずることは出来なかった。法水は可笑しさを耐えるような顔で、続いて云った。
「実をいうと、あれは僕の一番厭な恫訊問なんだよ。真斎を見た瞬間に直感したものがあったので、応急に組み上げたのだったけれど、真実の目的と云えば、実はほかにあったのだ。ただ真斎よりも、精神的に優越な地位を占めたい――というそれだけの事なんだよ。