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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「易介の死体さ。生から死へ移って行く凄惨な時間のうちに、易介自身ではどうにもならない、この重い鎧を動かしたものがあったのだ。見るとおりに、左右が全部斜めになっていて、その向きが、一つ置きに左、右、左となっているだろう。つまり、中央の萌黄匂が廻転したので、その肩罩板が隣りの肩罩を横から押して、その具足も廻転させ、順次にその波動が最終のものにまで伝わっていったのだ。そして、最終の肩罩板が把手を叩いて、扉を閉めてしまったのだよ」
「すると、この鎧を廻転させたものは?」
「それが、兜と幌骨なんだ」と云って、法水は母衣を取り除け、太い鯨筋で作った幌骨を指し示した。「だって、易介がこれを通常の形に着ようとしたら、第一、背中の瘤起が支えてしまうぜ。だから、最初に僕は、易介が具足の中で、自分の背の瘤起をどう処置するか考えてみた。すると思い当ったのは、鎧の横にある引合口を背にして、幌骨の中へ背瘤を入れさえすれば、――という事だったのだ。つまり、この形を思い浮べたという訳だが、しかし病弱非力の易介には、とうていこれだけの重量を動かす力はないのだ」
「幌骨と兜?」と熊城は怪訝そうに何度となく繰り返すのだったが、法水は無雑作に結論を云った。