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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
がうのです。まず八度くらいはあったろうと思われました。それから、とぼとぼ広間の方へ歩いて行ったのを覚えております。とにかく、あの男の顔を見たのは、それが最後でございました」
「すると、それから君は、易介が具足の中に入るのを見たのかね」
「いいえ、ここにある全部の吊具足が、グラグラ動いておりましたので……たぶんそれが、一時を少し廻った頃だったと思いますが、御覧のとおり円廊の方の扉が閉っていて、内部は真暗でございました。ところが金具の動く微かな光が、眼に入りましたのです。それで、一つ一つ具足を調べておりますうちに、偶然この萌黄匂の射籠罩の蔭で、あの男の掌を掴んでしまったのです。咄嗟に私は、ハハアこれは易介だなと悟りました。だいたいあんな小男でなければ、誰が具足の中へ身体を隠せるものですか。ですからその時、オイ易介さんと声を掛けましたが、返事もいたしませんでした。しかし、その手は非常に熱ばんでおりまして、四十度は確かにあったろうと思われました」
「ああ、一時過ぎてもまだ生きていたのだろうか」と検事が思わず嘆声をあげると、
「さようでございます。ところが、また妙なんでございます」