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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
つまり、どこか他の場所に、響石か木片楽器めいたものでもあれば、それを音響学的に証明しろ――という意味にもなる。それに気が附いたので、僕は往昔マグデブルグ僧正館の不思議と唱われた、『ゲルベルトの月琴』――の故事を憶い出したよ」
「ゲルベルトの月琴※(感嘆符疑問符、1-8-78)」検事は法水の唐突な変説に狼狽してしまった。「いったい月琴なんてものが、鐘の化物にどんな関係があるね」
「そのゲルベルトと云うのが、シルヴェスター二世だからさ。あの呪法典を作ったウイチグスの師父に当るんだ」と法水は気魄の罩もった声で叫んだ。そして、床に映った朧ろな影法師を瞶めながら、夢幻的な韻を作って続ける。
「ところでペンクライク(十四世紀英蘭の言語学者)が編纂した『ツルヴェール史詩集成』の中に、ゲルベルトに関する妖異譚が載っている。勿論当時のサラセン嫌悪の風潮で、ゲルベルトをまるで妖術師扱いにしているのだが、とにかくその一節を抜萃してみよう。一種の錬金抒情詩なんだよ。
ゲルベルト畢宿七星を仰ぎ眺めて
平琴を弾ず
はじめ低絃を弾きてのち黙す
しかるにその寸後
側の月琴は人なきに鳴り
ものの怪の声の如く、高き絃音にて応う