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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

なんだよ。見給え、ドーミエの口絵で、あの悪党坊主が嗤っているじゃないか」

「あッ、鍵がある!」その時熊城が頓狂な声で叫んだ。彼が床からその一冊を取り上げた時に、ちょうど内容の中央辺と覚しいあたりから、旆斧のような形をした、金属が覗いているのに気が付いたからだった。取り出してみると、輪形に小札がぶら下っていて、それには薬物室と書かれてあった。

「タルチュフと紛失した薬物室の鍵か……」法水は空洞な声で呟いたが、熊城を顧みて、「この曝し札の意味はどうでも、だいたい犯人の芝居気たっぷりなところはどうだ?」

熊城は憤懣の遣り場を法水に向けて、毒づいた。

「ところが、役者はこっちの方だと云いたいくらいさ、最初から、給金も出ないくせに嗤われどおしじゃないか」

「どうして、あんな淫魔僧正どころの話じゃない」と検事は熊城を嗜めるような軽い警句を吐いたが、かえって、それが慄然とするような結論を引き出してしまった。「事実まったく、クォーダー侯のマクベス様(四人の妖婆の科白)――とでも云いたいところなんだよ。どうして彼奴が死霊でもなければ、法水君が見当をつけたものを、それ以前に隠すことなんて出来るものじゃない」