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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

だから、僕がもし仏教秘密文学の耽溺者だとしたら、毎夜この墓※では、眼に見えない符号呪術の火が焚かれていて、黒死館の櫓楼の上を彷徨する、黒い陰風がある――と結論しなければならないだろう。しかし、とうてい僕には、それを一片の心霊分析としか解釈できない。そして、ディグスビイという神秘的な性格を持つ男が、生前抱いていた意志である――という推断だけに止めておきたいのだ。何故なら熊城君、すでに僕は危険を悟って、心理学の著述などは、ロッジの『レイモンド』ボルマンの『蘇格蘭人ホーム』の改訂版以後は読まないのだし、また、『妖異評論』の全冊を焼き捨ててしまったほどだからね」

最後に至って、法水は鉄のような唯物主義者の本領を発揮した。けれども、彼の張りきった絃線のような神経に触れるものは、たちどころに、その場去らず類推の花弁となって開いてしまうのだ。わずか一つの弱音器記号からでも、当の館の人々にさえ顔相すら知られていない、故人クロード・ディグスビイの驚くべき心理を曝け出したのであった。それから、法水等は墓地を出て、風雪の中を本館の方に歩んで行ったが、こうして、捜査は夜になるも続行されて、いよいよ、黒死館における神秘の核心をなすと云われる、三人の異国楽人と対決することになった。