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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

人形にさえ、口を空いている墳墓が待っているのですからね」

冒頭に旗太郎は、全然予期してもいなかった言葉を聴いたので、その蒼白くすんなり伸びた身体が、急に硬ばったように思われ、神経的に唾を嚥みはじめた。法水は続けて、

「と云って、貴方が口笛で『乳母の踊り』の個所を吹くと、それにつれて、テレーズの自動弾条人形が動き出すというのではないのです。それに、また昨夜十一時頃に、貴方が紙谷伸子と二人でダンネベルグ夫人を訪れ、それからすぐ寝室に入られたという事も判っているのですからね」

「それでは、何をお訊ねになりたいのです?」と旗太郎は十分声音変化のきている声で、反抗気味に問い返した。

「つまり、貴方がたに課せられている、算哲博士の意志をですがね」

「ああ、それでしたら」と旗太郎は、微かに自嘲めいた亢奮を泛べて、「確かに、音楽教育をしてくれた事だけは、感謝してますがね。でなかった日には、既に気狂いになっていますよ。そうでしょう。倦怠、不安、懐疑、廃頽――と明け暮れそればかりです。誰だって、こんな圧し殺されそうな憂鬱の中で、古びた能衣裳みたいな人達といっしょに暮してゆけるもんですか。