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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
誰しもその優雅な姿を見たら、この婦人が、ロムブローゾに激情性犯罪の市と指摘されたところの、南伊太利ブリンデッシ市の生れとは気づかぬであろう。レヴェズ氏はフロックに灰色のトラウザー、それに翼形カラーをつけ、一番最後に巨体を揺って現われたが、先刻礼拝堂で遠望した時とは異なり、こう近接して眺めたところの感じは、むしろ懊悩的で、一見心のどこかに抑止されているものでもあるかのような、ひどく陰鬱気な相貌をした中老紳士だった。そして、この三人は、まるで聖餐祭の行列みたいに、ノタリノタリと歩み入って来るのだった。恐らくこの光景は、もしこの時、綴織の下った長管喇叭の音が起って筒長太鼓が打ち鳴らされ、静蹕を報ずる儀仗官の声が聴かれたなら、ちょうどそれが、十八世紀ヴュルッテムベルクかケルンテン辺りの、小ぢんまりした宮廷生活を髣髴たらしめるものであろうし、また反面には、従えた召使の数に、彼等の病的な恐怖が窺えるのだった。さらに、いま旗太郎との間に交された醜悪な黙闘を考えると、そこに何やら、犯罪動機でも思わせるような、黝んだ水が揺ぎ流れるといった気がしないでもなかった。けれども、なによりこの三人には、最初から採証的にも疑義を差し挾む余地はなかったのである。