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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「そ、それを御承知のくせに」とクリヴォフ夫人はたまらなくなったように立ち上り、杖を荒々しく振って叫んだ。「だからこそ私達は、その伴侶を焼き捨てて欲しいと御願いするのです」
ところが、法水はさも不同意を仄めかすように、莨の紅い尖端を瞶めていて答えなかった。が、側にいる検事と熊城には、いつ上昇がやむか涯しのない法水の思念が、ここでようやく頂点に達したかの感を与えた。けれども、法水の努力は、いっかな止もうとはせず、この精神劇において、あくまでも悲劇的開展を求めようとした。彼は沈黙を破って、挑むような鋭い語気で云った。
「ですがクリヴォフ夫人、僕はこの気狂い芝居が、とうてい人形の焼却だけで終ろうとは思えんのですよ。実を云うと、もっと陰険朦朧とした手段で、別に踊らされている人形があるのです。だいたいプラーグの万国操人形聯盟にだって、最近『ファウスト』が演ぜられたという記録はないでしょうからな」
「ファウスト※(感嘆符疑問符、1-8-78) ああ、あのグレーテさんが断末魔に書かれたと云う紙片の文字のことですか」レヴェズ氏は力を籠めて、乗り出した。
「そうです。最初の幕に水精、二幕目が風精でした。