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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「いやどうして」と法水はすかさず皮肉に応酬した。「ですがクリヴォフ夫人、たしか聖アムブロジオだったでしょうか、死は悪人にもまた有利なり――と云いましたからな」
鎖を忘れられた聖バーナード犬が、物悲しげに啼きながら、セレナ夫人の跡を追うて行ったのが最後で、三人が去ってしまうと、入れ違いに一人の私服が先刻命じておいた裏庭の調査を完了して来た。そして、調査書を法水に渡してから、
「鎧通しは、やはりあの一本だけでした。それから、本庁の乙骨医師には、御申し付けどおりに渡しておきましたが」と復命すると、それに法水は、尖塔にある十二宮の円華窓を撮影するように命じてから、その私服を去らしめた。熊城は当惑げな顔で、微かに嘆息した。
「ああまた扉と鍵か、犯人は呪い屋か錠前屋か、いったいどっちなんだい。まさかにジョン・デイ博士の隠顕扉が、そうザラにあるという訳じゃあるまい」
「驚いたね」法水は皮肉な微笑を投げた。「あんなもののどこに、創作的な技巧があってたまるもんか。そりゃ、この館から一歩でも外へ出れば、無論驚くべき疑問に違いないさ。けれども、先刻君は書庫の中で、犯罪現象学の素晴らしい書目を見たはずだっけね。